企業が自ら理想とする人材との接点を作る「ダイレクトリクルーティング」。求人広告を出して応募を待つ従来の採用方式とは異なり、能動的に行動することで、より相性のよい人材との接点を持つことができます。
今回はダイレクトリクルーティングの仕組みや導入するメリット、必要な費用の目安を解説します。また、実際に活用している企業の事例も詳しく見ていきましょう。
ダイレクトリクルーティングとは
ダイレクトリクルーティングとは、企業が自ら欲しい人材に声をかけて採用する手法のことです。具体的には、企業側が、転職を考えている人だけでなく、潜在的に転職の可能性がある人に対してもアプローチする採用方式を指します。
海外では「ダイレクトソーシング」という呼び名でこの採用方式が広く使われていました。最近では、労働人口の減少や深刻な人材不足が続く日本でも導入されつつあります。
ダイレクトリクルーティングと従来の採用方式の違い
従来の採用方式では、自社サイトや求人サイト、人材紹介会社などに設けた窓口に求人を公開します。求職者からの応募を待つ必要があるため、企業側からは主体的な行動を起こしづらいといった側面があります。
一方、ダイレクトリクルーティングでは、企業が自ら理想の人材を探してアプローチすることができます。人材データベースやSNS、就職関連のイベントなどの機会を利用して、企業側が能動的に人材を探すスカウト型の採用手法であり、「攻め」の姿勢で取り組めるのが大きな特徴です。
ダイレクトリクルーティングのメリット
ダイレクトリクルーティングは、企業側にとってさまざまなメリットをもたらします。ここでは、具体的なポイントを3つに分けて解説します。
必要な人材を効率よく探せる
ダイレクトリクルーティングの大きなメリットは、「人材のミスマッチを回避できる」ことです。期間を設けて応募を待つ採用スタイルとは異なり、自社で必要な人材に直接声をかけることができるため、採用の効率が大幅に向上します。
従来は年収などを軸にマッチするケースが一般的であったため、社内の風土や業務の方向性などの訴求が難しい面がありました。それに対して、ダイレクトリクルーティングでは企業側からアプローチため、年収以外の部分も直接的に知ってもらうことが可能です。
自社に合うと判断した人材にアプローチし、求職者にもその理由などを具体的に示せるためミスマッチが起きにくく、結果的に採用活動を効率的に行うことができます。
採用コストを抑えられる
正しく導入することで、採用コストを抑えられるという点も、ダイレクトリクルーティングのメリットです。
従来の採用方式では、人材派遣会社や求人広告を利用するための費用がかかります。特に広告については、仮に採用へ至らなかったとしても費用が発生します。
一方ダイレクトリクルーティングの場合、人材データベースの利用料と成功報酬費はかかるものの、両者の費用は人材紹介費用より安く設定されているのが一般的です。
採用のミスマッチが起こりにくく、狙った人材だけにアプローチできる点を考慮すると、コストパフォーマンスは従来の採用方法よりも優れているといえるでしょう。
自社の採用力を高めることができる
企業が直接的に人材を採用することで費用対効果を把握しやすい点もダイレクトリクルーティングの特徴です。PDCAサイクルを主体的に回すことができ、そのノウハウを自社に蓄積できるため、自社の採用力そのものを向上できるのです。
また、広く求人広告を出す方法と比べると、認知度の低い企業であっても求職者に自社の魅力をアピールしやすい点もメリットです。きちんと強みを伝えられれば、採用条件において有名企業と対等に競うことも決して不可能ではありません。
人材データベースには、「本格的な転職は考えていないものの、良い条件の会社があればトライしてみたい」と考える転職潜在層も登録されています。ダイレクトリクルーティングではこのような潜在層へもアプローチできるため、募集の幅が広がり、自社の採用競争力向上につながるのです。
ダイレクトリクルーティングのデメリット
ダイレクトリクルーティングを導入する際には、メリットだけでなくデメリットにも目を向けておく必要があります。ここでは、2つのデメリットを見ていきましょう。
人事や採用担当の工数が増える
能動的な採用活動が行える分、必要なタスクをすべて自社でこなす必要があるため、人事や採用担当者の負担が増えてしまう可能性があります。基本的にはスカウトメールを用いてファーストコンタクトを図るため、文面の作成ややりとりの管理などを含めると、業務量は通常よりも多くなるのが一般的です。
とはいえ、ノウハウが蓄積されていくにつれ、次第に円滑に業務対応できるようになります。ダイレクトリクルーティングを導入する際は、一時的に人事部門のリソースを増やすなど、柔軟な対応を意識するとよいでしょう。
短期的な採用には向いていない
ダイレクトリクルーティングは、どちらかといえば特定の人材とじっくり向き合う採用方式にあたるため、短期での採用には向いていません。特に転職潜在層も含めてアプローチする際には、すぐに形式的な面接をするのではなく、カジュアルな面談などを通して自社の魅力を知ってもらうプロセスも重要となります。
PDCAを回して長期的に採用をしていく体制を整えることが成功のカギといえるでしょう。
ダイレクトリクルートの料金相場
ダイレクトリクルーティングの料金設定には、「先行投資型」と「成果報酬型」の2種類があります。ここでは、それぞれの仕組みと料金相場について解説します。
先行投資型 | 成果報酬型 | |
仕組み |
・人材データベースの利用料を前払いする ・数ヵ月~1年単位に区切って利用する |
・応募や採用の決定など、具体的なアクションに応じて報酬が発生する |
特徴 |
・採用人数にかかわらず料金は一定 ・スカウト数などの枠組みはプランごとに分かれていることが多い |
・初期コストが発生しない ・成果と料金のバランスを把握しやすい |
費用相場 | ・年間100~400万円程度 | ・人材の年収の30%程度(1件あたり) |
具体的な料金体系は利用する媒体によってさまざまであり、2つのシステムを組み合わせたものや、月額制のものなどもあります。自社の採用事情や予算、期間などを踏まえて、最適なサービスを見極めましょう。
ダイレクトリクルーティングの事例
ダイレクトリクルーティングを初めて導入する際は、実際に活用している企業の事例が参考になります。3社の成功例から、自社に活かせそうな活用方法を探ってみましょう。
ヤフー株式会社
ヤフー株式会社では、おもに中途採用の領域で2017年頃からダイレクトリクルーティングを活用し、運用実績を上げています。
実用的な技術を持ったエンジニアを求めるにあたり、ヤフーでは採用プロセスをダイレクトリクルーティングにシフトさせることで、これまでアプローチできなかった層の開拓を進めました。その結果、着実に即戦力となる人材を確保できるようになり、社内全体のチーム力を高めています。
また、既卒採用で培ったノウハウを活かし、新たに新卒採用においてもダイレクトリクルーティングの導入を行っているのも特徴的です。
インターンの母集団形成にダイレクトリクルーティングを取り入れることで、オフィスにいながら優秀な人材とコンタクトがとれるようになり、質を追求した採用活動が可能になりました。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリでは、「人」に注力した大胆な採用方針の転換により、効率的な採用活動を実現しています。
同社では、従来の採用プロセスで応募してくる求職者と自社のニーズがマッチせず、時間や費用をかけても採用に至らないケースが頻発していました。
そこで、転職活動に活用されることの多いSNS「LinkedIn(リンクトイン)」を活用したダイレクトリクルーティングにシフトし、条件の合う求職者との接点に労力を絞り込む方針へと転換しました。
また、2015年からはミートアップイベントなどの交流会を定期的に開催するなど、自社のファンを獲得するための仕組みを導入しています。
実際にミートアップから内定に至ったケースもあり、通常と比べて低いコストで、より相性のよい求職者の採用に成功しています。
レバレジーズ株式会社
レバレジーズ株式会社では、ダイレクトリクルーティングによって、人材確保が課題になりがちなIT専門職の採用で実績を上げています。
従来の採用媒体では、専門性の高いIT人材との出会いが限られてしまい、応募数の少なさが大きな課題となっていました。また、専門性を踏まえたスクリーニングをかけることが困難で、採用時にミスマッチが起こりやすいといった問題もありました。
そこで、ダイレクトリクルーティングを導入し、職種ごとに現場の担当者が採用の判断を行い、より実務との相性がよい人材を直接選ぶ方針に切り替えたのです。
まとめ
ダイレクトリクルーティングは、自社に必要な人材を丁寧に見極め、能動的にアプローチできる採用方式です。応募を待たなければならない通常の採用スタイルと異なり、企業側から主体的に行動を起こせるため、採用時のミスマッチが起こりにくく、即戦力となる人材を確保しやすくなるのがメリットです。
一方、上手に活用するには一定のノウハウと見識が必要となるため、ある程度長期的なスパンで取り組む必要があります。自社の実情と採用目標を考慮しながら、ダイレクトリクルーティングの可能性に目を向けてみましょう。