2015年の労働者派遣法改正により、無期雇用派遣という新しい働き方が生まれました。派遣スタッフとの間で期間を定めることなく雇用契約を結ぶ派遣形態で、働く側にも多くのメリットがあることから注目されています。
この記事では、無期雇用派遣の基本的な仕組みやほかの働き方との違い、メリット・デメリット、注意点などを詳しく解説します。
無期雇用派遣とは
まず、基本的な言葉の定義を把握しましょう。無期雇用派遣と、有期雇用派遣や正社員などとの違いも含めて解説します。
無期雇用派遣は、2015年の労働者派遣法の改正によって生まれた働き方であり、派遣会社と働く人との間で期間を定めない雇用契約を結ぶ点に特徴があります。派遣先の就業期間終了後でも、派遣会社と働く人の雇用契約が継続する仕組みです。
無期雇用派遣と有期雇用派遣の違いは?
無期雇用派遣が何かを理解するために、まず派遣社員には「有期雇用派遣(登録型派遣)」と「無期雇用派遣(常用型派遣)」の2種類があることをおさえておく必要があります。
有期雇用派遣とは、派遣スタッフが派遣先で働いている期間だけに限って、派遣会社と派遣スタッフとの間に有期雇用契約を結ぶ派遣のことです。採用にあたって選考はなく、派遣スタッフは派遣会社に事前登録を行うことで派遣先を紹介されます。
派遣先によって就業期間や更新の回数はそれぞれですが、派遣契約において働く期間があらかじめ定められているのが有期雇用派遣の特徴です。有期雇用派遣では、派遣先での就業期間が終わると同時に派遣会社との雇用契約も終了するケースがほとんどです。
一方、無期雇用派遣は派遣スタッフの派遣先が決まっていない状態であっても、派遣会社に雇用されている形となります。そのため、派遣会社が行う選考に応募して、審査を通過しておく必要があります。
また、給与の支払われ方にも違いがあります。有期雇用派遣の場合は派遣先が決まらない限り、派遣スタッフは派遣会社から給与を受け取ることができません。一方、無期雇用派遣の場合は期間を定めずに派遣会社と雇用契約を結んでいるので、派遣スタッフは毎月決まった給与を派遣会社から受け取ることができます。
派遣スタッフとして働く側にとって、給与の受け取り方は異なりますが、派遣先の企業においては金銭面での違いは特にありません。
無期雇用派遣と正社員の違いは?
雇用期間の定めがないという点では、無期雇用派遣と正社員は似ている部分もありますが、ベースとなる勤務地や業務内容に違いがあります。正社員の場合は異動によって担当する業務や勤務地が変わることはありますが、所属する会社が変わることは基本的にありません。
一方、無期雇用派遣の場合は雇用契約を結ぶ派遣会社は変わりませんが、派遣先はその都度変わっていきます。
また、派遣先の正社員には賞与が出ますが、派遣スタッフは派遣先に直接雇われているわけではないため、派遣先の賞与支給対象ではなく、一般的に派遣会社から賞与が支払われます。
さらに正社員の場合は、給与や賞与は企業の業績の影響を受けますが、派遣スタッフの場合は、派遣先の業績が悪化したとしても給与に変化は生じません。
無期雇用派遣と正社員とでは、給与や賞与の取り扱いが異なる点をおさえておきましょう。
無期雇用派遣のメリット
無期雇用派遣は時代の変化に伴って新設された働き方であるため、さまざまなメリットがあります。どのような特徴があるのかを解説します。
長期的に雇用できる
無期雇用派遣では、派遣会社と派遣スタッフが期間を定めずに雇用契約を結ぶため、長期的な人材の確保や人的リソースの安定につながります。
また、働く側も長く働くことでスキルを習熟しやすくなるため、派遣会社、派遣スタッフ、派遣先の3者にそれぞれメリットをもたらすといえるでしょう。
引き継ぎや後任を探す手間が軽減される
労働者派遣法により、派遣社員は同じ職場で3年以上働くことができないことになっています。3年ごとに後任の人材を探したり、業務の引き継ぎを行ったりする手間や時間がかかります。
しかし、無期雇用派遣の場合は3年以上働くことが可能なため、人事や労務における業務の負担軽減につながるでしょう。
人の入れ替えや業務の引き継ぎを最小限に抑えられることで、業務の質を一定レベルに保ちやすいというメリットがあります。同じ派遣スタッフに長く同じ業務を担当してもらうことで、業務を円滑に進めやすくなるでしょう。
優秀な人材を雇用できる
企業が直接的に人材を採用することで費用対効果を把握しやすい点もダイレクトリクルーティングの特徴です。PDCAサイクルを主体的に回すことができ、そのノウハウを自社に蓄積できるため、自社の採用力そのものを向上できるのです。
また、広く求人広告を出す方法と比べると、認知度の低い企業であっても求職者に自社の魅力をアピールしやすい点もメリットです。きちんと強みを伝えられれば、採用条件において有名企業と対等に競うことも決して不可能ではありません。
人材データベースには、「本格的な転職は考えていないものの、良い条件の会社があればトライしてみたい」と考える転職潜在層も登録されています。ダイレクトリクルーティングではこのような潜在層へもアプローチできるため、募集の幅が広がり、自社の採用競争力向上につながるのです。
無期雇用派遣のデメリット
無期雇用派遣には多くのメリットがありますが、一方で気をつけておきたいデメリットも少なからずあります。どのような点に注意すべきか見ていきましょう。
派遣の料金が高い傾向がある
優秀な人材を雇用できることをメリットとして挙げましたが、逆をいえば、優秀な人材であれば、その分高い給与を支払う必要があるということです。派遣会社や派遣先の会社にとって、経済面での負担が大きくなるでしょう。
また、派遣会社によっては、派遣先における勤務実態をもとにスタッフを評価し、正社員のような昇給制度や賞与の仕組みを設けているところもあります。派遣会社が支払うコストが高ければ、派遣先が支払うコストもおのずと高くなるので注意が必要です。
就業し続けてもらえるとは限らない
無期雇用派遣には雇用期間の定めがありませんが、派遣先が希望する人材に必ずしも就業し続けてもらえるとは限りません。本人の意志や派遣会社の状況によっては、求める人材を長い期間確保できない場合もあります。
人材の確保に支障が出ないように、人材の入れ替えが行われるタイミングでは、派遣会社に早めに相談をして対応策を事前に立てておきましょう。
派遣にまつわる知っておくべきルール
派遣社員の受け入れを行っている、または検討している場合は、労働者派遣法についても知っておきましょう。労働派遣法では、派遣会社に対して「同一労働同一賃金」「説明義務」「開示義務」などのルールが設けられています。それぞれのルールについて、ポイントを解説します。
同一労働同一賃金
同一労働同一賃金とは、2020年4月1日から適用されている労働者派遣法のルールです。同じ会社のなかで、業務内容や責任の範囲などが全く同じ場合には、雇用形態が異なっても同じ賃金を支払わなければならないという決まりです。派遣社員の場合は、派遣先の会社で同じ業務内容の正社員と同じ賃金にする必要があると定められています。
派遣会社における同一労働同一賃金は、「派遣先均等・均衡方式」もしくは「労使協定方式」のどちらかの方式を採用する必要があります。
◆派遣先均等・均衡方式
派遣スタッフの待遇を派遣先の正社員の待遇に合わせる方式です。この方式の場合、どの派遣会社から派遣社員を雇っても、同じ業務をする場合は支払う賃金は同じです。
◆労使協定方式
派遣スタッフの待遇を派遣会社側であらかじめ決めておく方式です。この方式では、派遣スタッフの待遇を派遣先の正社員と同じにする必要はありません。同じような業務に従事する一
説明義務
派遣会社は派遣スタッフに対して、雇い入れや派遣時に、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無などについて説明することが義務付けられています。
2020年の労働者派遣法の改正により、労働者に対しての待遇に関する説明義務が強化されたことにより、派遣会社から派遣社員に伝えるべき内容が拡大しました。派遣先は、派遣会社との契約締結の際に、待遇格差がないかを確認するために従業員の情報を提供する必要があります。
開示義務
従来、派遣会社のマージン率の開示は、インターネット以外の方法も認められていましたが、2021年の労働者派遣法の改正によって原則インターネットでの公開が義務付けられました。
派遣会社に情報公開が義務付けられている項目は次の5つです。
- 事業所ごとの派遣労働者数
- 派遣先数
- マージン率(派遣料金の平均額・派遣労働者の賃金の平均額)
- 教育訓練
- 労使協定の締結の有無
派遣会社を選ぶ際は、上記に掲げられている項目がきちんとインターネットで情報公開されているかをチェックしましょう。
まとめ
無期雇用派遣は派遣会社が雇用期間の定めを設けずに、派遣スタッフと雇用契約を結ぶ仕組みです。これによって、派遣スタッフは派遣先での就業期間が終了しても、派遣会社との雇用契約はそのまま継続するため、長く働き続けることができます。