労働力不足が盛んに叫ばれている昨今、派遣社員の雇用は短期で自社のリソース不足を解消できる有効な手段ですが、その際には「派遣料金の適切な設定」が課題として発生します。そこで本記事では、派遣料金の値上げが重要な理由と、値上げによるメリットを解説します。
労働力不足が盛んに叫ばれている昨今、派遣社員の雇用は短期で自社のリソース不足を解消できる有効な手段です。
ただし、その際には「派遣料金の適切な設定」が課題として発生します。特に現在は、労働市場の変化や最低賃金の上昇、同一労働同一賃金の遵守など、さまざまな要因により派遣料金の値上げが必要とされています。
そこで本記事では、派遣料金の値上げが重要な理由と、値上げによるメリットを解説します。
派遣料金の仕組みや内訳
採用にかかるコストは、以下の2つに大別されます。
● 初期費用(イニシャルコスト)
● 継続費用(ランニングコスト)
次項より、派遣社員採用の場合にはどのような費用が掛かるのか、それぞれ個別に見ていきましょう。
初期費用(イニシャルコスト)
初期費用(イニシャルコスト)とは、新たに雇用する際に発生する費用のことです。具体的には、社員の募集、選考、研修などにかかるコストが含まれます。しかし、派遣社員採用の場合、これらの対応は派遣元企業が実施しており、派遣先企業が負担をすることはありません。
そのため、派遣社員を採用するにあたり、派遣先企業が負担するのは業務に必要な備品などの費用などで、初期費用はほとんどかかりません。この点が、人材派遣サービスの利点といえるでしょう。
継続費用(ランニングコスト)
継続費用(ランニングコスト)とは、派遣社員が実際に働き始めた後に定期的に支払われる費用です。この費用に含まれるのは、派遣社員の給与をはじめとした人件費、派遣会社の管理費などが挙げられ、これは派遣社員が働いている間、継続して発生する費用です。
派遣社員が安心して働き続けられるような環境を提供し、派遣会社が質の高いサービスを維持できるようにするためには、これらの継続費用の適切な管理と投資が不可欠です。
派遣料金のマージン率とは
派遣料金のマージン率について説明します。派遣料金のマージン率とは、人材派遣の料金から派遣社員に支払う賃金を除いた残りの額(すなわち「マージン」)が、派遣料金全体に占める割合を指します。このマージン率は、労働者が自分に合った派遣会社を選択できるよう、2012年の労働者派遣法改正より情報公開が派遣会社に義務付けられています。
マージンには、有給休暇の適切な取得や社会保険料、資格取得推奨などの教育訓練費用、正社員と同等の交通費などの費用が含まれており、法令を遵守し派遣社員が安心して働ける環境づくりにつながっています。
そのため、マージン率が低いことが必ずしもよいとはいえず「マージンが何に使われているか」も勘案して、総合的に判断しましょう。
マージン率の計算方法
マージン率の計算方法についても触れておきます。マージン率は、派遣料金の平均額から派遣労働者の賃金の平均額を引いた後、その結果を派遣料金の平均額で割ることで求められます。
厚生労働省が2018年に発表した情報によると、マージン率はおおよそ30%強の水準であるとされていますが、これは人材派遣会社によって異なります。この率を理解することは、派遣会社が提供する価値とサービスの質を評価する上で役立ちます。
派遣料金を値上げした方がいい理由
近年は、さまざまな理由から派遣社員にかける費用をアップさせた方がよいと考えられます。具体的な理由は、以下のとおりです。
● 全国的に最低賃金が上昇したから
● 労働市場が変化しているため
● 同一労働同一賃金を遵守するため
それぞれ解説します。
全国的に最低賃金が上昇したから
2023年8月18日に、厚生労働省は2023年度の都道府県別最低賃金額を発表しました。この改定によって、47都道府県の最低賃金は39円~47円引き上げられ、全国加重平均額は1,004円となりました。
これは昨年度の961円から43円の引き上げであり、過去最大の引き上げ幅です。この結果、全国加重平均額が初めて1,000円を超えました。
最低賃金の上昇に伴い、派遣会社が派遣社員に支払うべき最低時給を引き上げられます。そして、派遣会社は派遣社員に支払う賃金以外にも、社会保険料や福利厚生費、管理運営費などのコストを負担しています。最低賃金の上昇は、これらのコストも連動して増加することになります。
労働市場が変化しているため
労働市場の変化は派遣料金を値上げする理由のひとつです。有効求人倍率はゆるやかながらも上昇し続けており、 求職者はより給与の高い求人に応募する傾向があり、この傾向は派遣社員においても顕著です。
そのため、優秀な人材の確保し定着させるには、派遣社員の時給を適切な水準もしくはそれ以上に設定する必要があります。労働市場の変化に対応し、派遣社員への適正な報酬を確保することは、質の高いサービスの提供と業界全体の健全な発展にもつながるでしょう。
同一労働同一賃金を遵守するため
同一労働同一賃金の原則を遵守することも、派遣料金を値上げする理由です。2020年4月1日に改正労働者派遣法が施行され、「同一労働同一賃金」が料金設定の指標となっています。これにより、正社員と派遣社員を含む非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差が解消されると考えられています。
派遣社員の一般賃金の基準値は、厚生労働省の局長通達で示される統計を基に決定されています。同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準は毎年更新されるため、現在設定されている派遣社員の賃金が水準を下回る場合には、給与の見直しが必要となります。
このように、同一労働同一賃金の原則を遵守するためには、派遣料金の見直しが不可欠です。適切な対応を取ることは、派遣社員に対する公平な待遇の保証につながり、働きがいのある環境を提供することできるでしょう。
派遣料金を値上げするメリット
派遣料金を値上げすれば、企業としては次のような恩恵があります。
● 採用できる人材の質が向上する
● 派遣社員のモチベーションがアップする
● 派遣継続が可能となる
以下より、詳しく解説します。
採用できる人材の質が向上する
派遣料金の値上げは、派遣会社が提供できる賃金が高まることで、より優秀な人材をひきつける魅力となります。高い賃金は特に、専門スキルや豊富な経験を持つ人材にとって魅力的な要因となり、結果として派遣される人材の質が全体的に向上するでしょう。
人材の質が向上すれば、派遣先企業が受けるサービスの質も自然とアップし、企業の生産性や効率性の向上が見込まれます。これは、企業にとっても派遣社員にとっても大きなメリットといえます。
派遣社員のモチベーションがアップする
派遣料金を値上げすることで派遣社員への報酬が増加し、その結果、派遣社員のモチベーションの向上が期待できます。適正な報酬は、派遣社員の働く意欲を刺激し、仕事への満足度を高めてくれます。
モチベーションが高い派遣社員は、より積極的に業務に取り組み、その結果、派遣先企業に対してもポジティブな影響を及ぼすでしょう。このような環境は、派遣社員と派遣先企業双方にとって有益な関係を築く要因となります。
モチベーションの向上は派遣社員の定着率を高め、人材の流動性を低下させる効果があります。
早期離職が防げる
値上げした報酬を提供することで、派遣社員の仕事に対する満足度が高まり、定着率が向上する場合があります。
もちろん、労働者派遣法で同じ組織で「3年を超える期間継続して同一の派遣労働者に係る労働者派遣を行ってはならない」とされているため、基本3年以上の勤務ができません。しかしながら、派遣社員が満足して働ける環境を提供することは、早期の離職を防ぐことができるでしょう、これにより、派遣期間の3年間を最大限に活用し、この間の派遣社員の能力を充分に発揮させることにつながるといえます。
まとめ
派遣料金の適切な値上げは、質の高い人材を確保し、そのモチベーションを維持するための投資と捉えることが重要です。最低賃金の上昇、労働市場の変化、同一労働同一賃金の原則の遵守といった要因は派遣料金の見直しを促す重要な指標となります。
値上げにより、人材の質が向上し、派遣社員のモチベーションが高まるというメリットが存在します。企業はこれらの点を踏まえ、自社の人材戦略を再検討し、派遣料金の適切な設定を行うべきといえます。
長期的な企業の競争力強化と持続可能な成長のためにも、まず現在の派遣料金と市場状況を分析し、人材の質とコストパフォーマンスを最適化するためのプランを策定しましょう