仕事に関する従業員のストレスを的確に把握することは、円滑な人材マネジメントを行っていくうえで重要なポイントです。ストレスチェック制度は、企業側が従業員のストレスの度合いを把握するためだけでなく、従業員に自身が抱えるストレスに気づいてもらうためにも役立ちます。
ストレスチェック制度とは
ストレスチェックとは、労働者に対してストレスに関連した質問を投げかけ、回答を通して自身のストレス状態を把握してもらうための検査です。
2015年12月に施行された「改正労働安全衛生法」によって、一定以上の規模を持つ事業者は1年に1回のペースでストレスチェックを行うことが義務付けられました。
まずは、ストレスチェック制度の基本的な内容について見ていきましょう。
ストレスチェック制度の概要
ストレスチェックとは、ストレスに関する質問に労働者が回答することで、労働者自身が自分のストレス状態を知ることができる検査のことです。
具体的には、質問票に従業員が記入し、それを集計・分析することによって、自身のメンタルがどのような状態にあるのかを評価します。
常時使用する労働者が50名以上の会社では、年に1回の実施が義務付けられており、結果を労働者本人に伝えてメンタルの状態を把握してもらう必要があります。50名未満の事業所は努力義務とされているものの、今後の法改正によって同じように義務化される可能性もありますので、仕組みについて正しく理解しておきましょう。
ストレスチェック制度の目的
ストレスチェック制度の目的は、大きく以下の3つです。
- 労働者のメンタルヘルス不調の未然防止
- 労働者自身にストレスに関する気づきを促す
- 職場環境改善につなげる
ストレスチェック制度のおもな目的は、企業側が労働者のストレスを把握し、自身にストレスに関する気づきを促すことで、メンタルヘルスの不調によるリスクを予防・低減させることです。
また、労働者自身のセルフケアを進めるとともに、仕事量の軽減など、職場環境の改善につなげる狙いもあります。
ストレスチェックの実施状況
厚生労働省の令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況によれば、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所のうち、ストレスチェックを実施した事業所の割合は約65.2%でした。また、部や課ごとにストレスチェックを分析した事業所の割合は、約76.4%と公表されています。
高いストレスを感じている労働者に対して、医師による面接指導を促すなど、適切に対応していく必要があります。
企業に求められるメンタルヘルス対策については、こちらの資料でも解説しています。
ストレスチェックの対象者
ストレスチェックの対象者となるのは、厚生労働省が定める基準においては「常時使用するもの」とされています。常時使用するものとは、労働契約期間に定めがない人や契約期間が1年以上もしくは、当該事業場における1週間の労働時間が通常の労働者の4分の3以上である人のいずれかです。
常時雇用者や直接雇用しているパート、アルバイトなどが当てはまりますが、派遣労働者は派遣元事業者がストレスチェックを実施するため対象外となります。在籍出向者や日本企業から海外出張中の労働者などはストレスチェックの対象ですが、休職中・育休中の労働者には実施しなくても差し支えないとされています。
また、労働安全衛生法施行令によって、ストレスチェックの実施が義務付けられているのは、「常時50人以上の労働者を使用する事業場」と定められています。
ストレスチェックの実施手順
ストレスチェックを実施するためには、基本的な手順を把握しておくことが重要です。ここでは、ストレスチェックを実施ための5つのプロセス「実施前の準備」「質問事項の決定」「実施・面接指導」「集団分析」「結果の報告と保管」についてそれぞれ解説します。
実施前の準備
まず実施前の準備段階として、以下の項目を確認しましょう。
- 実施者・実施事務従事者を決定する。
- 実施期間・質問項目・評価の内容を定める。
- 面接指導を行う医師を決める。
- データの保存や管理方法を決めておく。
初めてストレスチェックを行う際は、社内にノウハウの蓄積がないため、外部機関と連携して進めるとよいでしょう。管理を外部委託することもできますので、必要に応じて検討し、円滑に実施できるよう準備を整えることが大事です。
質問事項の決定
ストレスチェックの実施にあたって、どのような質問事項を設定するかは重要です。厚生労働省が公表している「ストレスチェック制度マニュアル」の質問票に具体的な質問項目が定められているので、それらを参考にしてみましょう。
労働者が従事している業務や職種によって感じるストレスはさまざまです。しかし、メンタルヘルスは職場の人間関係や過剰な業務負担によって悪化していることが多いため、一般的な質問事項で対応することも可能です。
紙の質問票を配布する場合は、チェックシートを労働者に配り、記入後は内容が見えないよう封筒などに入れて回収します。
WEBで実施する場合は、紙の配布や回収の手間がなくなるためより実施しやすいでしょう。
実施・面接指導
ストレスチェックで回収した質問票を医師などに評価してもらい、診断結果を出してもらいます。その結果から、高ストレス者であると診断を受けた労働者のなかで、面接を受けたいと申し出があった人に対しては面接指導を行いましょう。
医師による面接指導の結果をもとに、職場環境の改善を行います。医師からの結果報告・意見聴取を受けた際は、面接指導後の1ヶ月以内に職場環境の改善に取り組む必要があります。
集団分析
集団分析とは、検査結果を部署ごとに集計し、その結果に基づいて解釈を進める手法です。部署ごとの仕事の偏りなどを把握するのに役立つ方法であり、集団分析の結果を業務内容や労働時間など他の情報を交えながら評価していきます。
集団分析の結果、高ストレス状態であると判断された事業者は、業務量の見直しなどの職場環境改善に取り組むことが努力義務となっています。
結果の報告と保管
ストレスチェックを実施した後は、厚生労働省に報告書を提出します。
結果の保管は事業者もしくは実施事務従事者が、書面記録か電磁的記録によって行います。また、保管期間は5年間と定められています。
ストレスチェックの注意点
ストレスチェックは手順に沿って実施することが大切ですが、いくつか気をつけるべき注意点があります。それぞれ見ていきましょう。
業務の繁忙期は避けて行う
ストレスチェックの精度を高めるには、労働者が今の労働環境をじっくり振り返る余裕があるタイミングで実施することが重要です。繁忙期に質問票を配布しても十分に考えて回答する時間がないため、正確な結果を得づらくなります。
実施時期に関しては現場の意見も聞きながら、適切なタイミングを見極めましょう。
事前に主旨を説明しておく
ストレスチェックは労働者に対して行うものなので、あらかじめ主旨をきちんと説明しておくことが大切です。プライバシーの保護や調査結果の取り扱いについて事前に説明をしていない場合、十分な回答を得られないこともあります。
また、個人情報の取り扱いについても気をつける必要があります。たとえ事業主であっても本人の同意を得ずに、ストレスチェックの結果を確認することはできません。実施者や実施事務従事者、本人以外にはストレスチェックの結果を知られないようにする仕組みが必要です。
そのほかにも、人事評価に影響を与えるものではないことも、事前に説明しておきましょう。ストレスチェックを行うにあたって、労働者が安心して回答できる環境を整えることが、実態把握につながります。
実施後は具体的な改善につなげていく
ストレスチェックを実施し、診断結果の内容を把握するだけでは不十分です。ストレスチェックを実施したあとは、高ストレス者への面接指導や職場改善などの取り組みを適切に行う必要があります。
定期的に状況を把握するなどアフターフォローをしっかりと行うことで、診断結果の内容にどのような改善が見られたかを確かめていきましょう。
外部機関と連携すると実施がスムーズ
初めてストレスチェックを行うときは、どのように進めていけばよいか迷ってしまうこともあるでしょう。そうした場合は、外部機関のプログラムを利用すると比較的手軽に進めていくことが可能です。
おもな外部機関としては、次のようなものがあります。
- EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)機関
- 労働衛生機関
- テストベンダー
- 社会保険労務士事務所
- 組織コンサルティング会社など
EAP機関は、身体と心の健康を支援するプログラムを実施する機関のことを指します。ストレスチェックの実施や医師との面接指導、職場環境の把握と改善の提案などを1つのパッケージとして実施しているため、初めてストレスチェックを実施する際も安心です。
労働衛生機関とは、職場での安全・健康的な作業環境の実現と維持を目的とした公共機関や社会保障団体のことです。また、テストベンダーとは民間企業が実施するストレスチェックサービスをいいます。
実施準備から集団分析まで対応しているストレスチェック特化型のサービスがあり、人事労務システムの一環として、ストレスチェッカー機能を提供している会社もあります。実施後のアフターフォローまで対応しているプログラムもあるので、目的に応じて選びましょう。
ほかにも、メンタルヘルス対策を専門とする社会保険労務士事務所を活用したり、集団分析を得意とする組織コンサルティング会社を利用したりする方法もよいでしょう。
実施する規模や内容によって相談先は異なるため、自社に合った外部機関を選ぶことが肝要です。
まとめ
労働者に対するストレスチェックを定期的に行うことは、メンタルヘルスの不調を最小限に抑え、より働きやすい職場環境を実現することにつながります。基本的な手順や注意点などを把握したうえで、実施のタイミングでは従業員に対して事前説明を行いましょう。
また、ストレスチェックを実施して終わりとするのではなく、高ストレス者への面接指導や職場環境改善などを適切に行っていく必要があります。自社のリソースだけでは実施が難しい場合は、外部機関と連携するなど、円滑に進めていく仕組みを整えることを検討してみましょう。
企業に求められるメンタルヘルス対策については、こちらの資料でも解説しています。