自社の採用強化を図る上では、「派遣社員を直接雇用する」という選択肢もあります。この記事では、派遣から直接雇用への移行について企業目線でのメリット、留意点、手順、および注意点を詳しく解説します。
自社の採用強化を図るうえでは、「派遣社員を直接雇用する」という選択肢もあります。派遣から直接雇用への切り換えは、企業と従業員にとって重要な転換点であり、さまざまなメリットがある一方で、トラブルや不利益が発生しないよう事前準備が必要です。
「派遣社員雇用の3年ルール」や「雇用努力義務」などの法的要件の理解、待遇や労働条件の適正な調整、保険や税務手続きの適切な管理は、直接雇用の成功を左右する要素といえます。
この記事では、派遣から直接雇用への移行における企業の視点でのメリットや留意すべき点、手順、および注意点を詳しく解説し、企業が直面する課題とその解決策について紹介します。
派遣社員を直接雇用する際のルールや法律
そもそも派遣社員とは、特定の労働者派遣会社に所属し、契約に基づいて別の企業(派遣先)で働く人々を指します。
通常、派遣会社と雇用契約を結び、派遣先企業の指示のもとで業務を行いますが、給与や労働条件の面では派遣会社が雇用主となるのが一般的です。派遣社員は、特定のスキルや短期的な労働力が必要な場面で企業にとって重要な役割を果たしています。
結論として、派遣社員を直接雇用することは十分に可能で、派遣先の企業が派遣社員と直接雇用契約を結び、自社の従業員として迎え入れることができます。
派遣社員雇用の「3年ルール」
労働者派遣法では、派遣社員は原則として派遣先の同一部署で3年を超えて働くことは認められていません。3年経過後の選択肢には、直接雇用のほかに「別部署への転換」「新たな派遣先での勤務」などがあります。
例外として60歳以上、無期雇用契約、有期プロジェクトへの参加、勤務日数の制限、代替派遣(育児休業など)は「3年ルール」の対象外です。さらに、事業所単位での期間制限が設けられており、派遣先企業が3年以上同一派遣社員を受け入れることには制限がありますが、労働組合の許可により延長することが可能です。
派遣社員に対しては派遣先が「雇用努力義務」を負う
労働者派遣法に基づき、派遣先企業は特定の条件を満たす派遣社員を直接雇用する努力義務を負います。この義務は、派遣社員に安定した雇用を提供する意向を持つ企業に対して、その実現を促進するために設けられています。
具体的には、「同一部署で1年以上就労している」「派遣契約終了後に同じ業務を継続する意向がある」「派遣元企業から直接雇用の依頼がある」などが特定の条件に該当します。
派遣先企業は、この努力義務を遵守することによって、派遣社員のキャリア発展と雇用の安定化を支援します。ただし、この義務は有期雇用の派遣社員に限定されており、無期雇用の派遣社員は対象外です。
さらに、派遣先企業には、特定の条件を満たす派遣社員に対して正社員募集情報の提供義務も課せられています。これは、派遣社員が派遣先企業で正社員として働く機会を得るための支援措置です。
派遣社員を直接雇用するメリット
派遣社員を直接雇用するメリットとしては、次のものが挙げられます。
● 継続して働いてもらえる
● 採用にかかる負担を抑えられる
● 任せられる業務の幅が広がる
個別にみていきましょう。
継続して働いてもらえる
労働者派遣法では派遣社員が同一部署で働ける期間は最大3年と制限されていますが、直接雇用へ切り換えることでこの期間制限を超える長期勤務が可能になります。これにより、従業員の継続的な業務遂行が実現し、業務のレベルの向上と効率化が期待できるでしょう。
長期間の業務継続はプロジェクトの安定性と成功率を高め、社内の人間関係の構築にも貢献します。また、従業員が長期にわたって同じ環境で働くことで、キャリア形成と職務への熱意が高まり、企業の全体的な生産性の向上につながります。
採用にかかる負担を抑えられる
業務内容や社内の文化に既に精通している派遣社員を直接雇用することで、新規採用に伴うリスクとコストが大幅に削減されます。
求人広告の費用、採用に要する時間と労力が削減され、既に職場に適応している派遣社員に新たな研修や教育を施すコストも最小限に抑えられるでしょう。
任せられる業務の幅が広がる
派遣契約では契約業務以外を依頼することが制限されていますが、直接雇用によりその制約が取り除かれ、より幅広い業務に従事させられます。
これにより、正社員や契約社員としての直接雇用は従業員のスキルアップにつながり、企業は人材資源の効果的な活用が実現します。
派遣社員を直接雇用する際の留意点
派遣社員を直接雇用することで、企業にとって有益な人材に長期的に安定して勤務してもらうことができます。しかし、一方で直接雇用によって発生する事項にも留意する必要があります。
たとえば、派遣社員を直接雇用すると派遣時のように勤務日数、時間、エリアを調整することが難しくなります。これは、従業員がフルタイムでの勤務を要求されることが多くなるためで、派遣契約時と比べて多様なライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が実現できない可能性があります。これは、直接雇用される派遣社員にとっても懸念点となることがあり、企業としては注意が必要です。
また、派遣から直接雇用への切り替えは、福利厚生などの管理や調整を伴うため、新たに人事部門の作業負担が増加します。
直接雇用は、派遣契約と比べると柔軟性が低下するため、市場の変動やビジネスニーズの変化に対して迅速な人員調整が困難になる可能性がある点にも留意が必要です。
派遣社員を直接雇用する手順
派遣社員を直接雇用する際の手順は、大きく3段階に分けられます。
● 1:派遣会社に直接雇用に関して確認を行う
● 2:契約条件についてすり合わせる
● 3:保険・税務に関する手続きを進める
以下より、個別にみていきましょう。
1:派遣会社に直接雇用に関して確認を行う
まず派遣元企業との契約内容の確認を行いましょう。
契約には、直接雇用に切り替える際の条件や手数料に関する条項が含まれていることがあり、派遣元企業との交渉や協議が必要になることもあります。また、派遣会社に相談せずに直接雇用を進める、つまり引き抜きをしてしまうとトラブルにつながるだけでなく、派遣先企業としての評価も損なうため、派遣会社には事前に伝えて進める方がよいでしょう。
2:契約条件についてすり合わせる
次に、直接雇用時の雇用契約条件を派遣社員に提示し、詳細について確認を行います。
雇用形態、勤務時間、休日、残業の有無、仕事内容、給与、福利厚生など、具体的な条件を派遣時のものと比較し、説明します。この段階での明確なコミュニケーションが、双方の合意形成には不可欠です。
3:保険・税務に関する手続きを進める
派遣社員を直接雇用に切り替えた後は、労災保険、雇用保険、健康保険、介護保険、厚生年金保険などの社会保険への加入手続きが必要になります。
加入に必要な書類の準備や資格取得届の提出を行い、派遣元企業からの源泉徴収票を入手して年末調整を行います。これにより、税務上の手続きが適切に進められるでしょう。
派遣社員を直接雇用する際の注意点
ただし、派遣社員を直接雇用する際には以下の点に注意する必要があります。
● 派遣社員にとって派遣時よりも悪い待遇にならないようにする
● 離職後1年以内は派遣社員として受け入れられなくなる
上記について、詳しく解説します。
派遣社員にとって派遣時よりも悪い待遇にならないようにする
直接雇用への切り替えに際しては、派遣時と比較し、待遇を悪化しないよう注意を払う必要があります。給与、福利厚生、勤務条件などを慎重に検討し、派遣社員に不利益が生じないよう配慮することが重要です。
直接雇用後の勤務形態についても、柔軟性を維持し、従業員のワークライフバランスを考慮した条件を提供することが望まれます。派遣時と比較して生じる可能性のあるコスト増加についても、給与や保険料、税金などの事前シミュレーションを行い、適切な予算計画を立てましょう。
離職後1年以内は派遣社員として受け入れられなくなる
派遣社員が直接雇用された後、その従業員を離職後1年間は派遣社員として再び受け入れることは法的に禁止されています。このルールは、従業員の雇用の安定性を保護するためのものです。企業はこの制約を理解し、雇用計画を立てる際には考慮したうえで慎重な判断を行う必要があります。
特に、派遣社員の直接雇用を検討する際は、長期的な雇用戦略の一環として、この制約を含むさまざまな法的要件を総合的に考慮することが重要です。
まとめ
企業にとって派遣社員の直接雇用は、人手不足の解消や人材育成の観点から有益である一方で、継続勤務してもらえないなど制約も多いです。自社にとって優秀な人材であれば、労働者派遣法に基づくルールを理解しつつ、直接雇用を進めるのもよいでしょう。その際、派遣時と比較して劣らない待遇の確保、保険・税務手続きの適切な管理を心がける必要があります。