派遣社員の登用は自社のリソース不足を短期で解消する有効な手段ですが、すぐに辞めてしまうという問題も同時に発生します。そこで本記事では、派遣社員がすぐに辞めてしまう原因と、それを防ぐために派遣先で実施できる具体的な対策について解説します。
派遣社員の登用は自社のリソース不足を短期で解消する有効な手段ですが、派遣社員がすぐに辞めてしまうという問題も同時に発生します。
この問題は多くの企業でたびたび起こっており、背後にはさまざまな要因が存在します。人間関係の問題から労働条件や給与への不満、業務内容の不一致、職場の環境まで、派遣社員が直面する課題は多岐にわたることでしょう。
これらを解決することは、派遣社員の能力を最大限に引き出し、長期間にわたって成果を発揮できる環境を構築するために不可欠です。
本記事では、派遣社員がすぐに辞めてしまう原因と、それを防ぐために派遣先で実施できる具体的な対策について解説します。
派遣社員がすぐに辞める5つの理由
厚生労働省が公開している 『平成29年派遣労働者実態調査の概況』では「派遣労働者からの苦情」という項目で調査が行われていました。この結果から、派遣社員がどのような点に困難や不満を覚えたりしているのかが読み取れ、離職の要因のひとつと推測できます。
同資料の内容を参照すると、以下の理由から派遣社員は困難を感じている可能性があります。
● ①:人間関係
● ②:業務内容
● ③:賃金
● ④:労働条件
● ⑤:指揮系統
それぞれ個別に見ていきましょう。
①:人間関係
職場内の人間関係が原因で退職を考える場合があります。これは派遣社員だけに起こりうるものではありませんが、派遣社員の場合は職場における人間関係で正社員と異なる立場にあるため、孤立感や不満を感じていることがあります。こうした感情は往々にして職場での居心地の悪さを引き起こし、その結果として退職を考えるケースもあるでしょう。
さらに、派遣社員と正社員との間のコミュニケーションの壁は、仕事上の誤解や不和を生じさせ、職場の雰囲気をさらに悪化させる可能性も懸念されます。
②:業務内容
割り当てられる業務が、派遣社員の想定していた内容やスキルと一致していない可能性があります。そうすると、より自分に適したところを求めて、職場を離れることを検討する人も多いでしょう。
また、派遣社員が事前に確認していた募集要項と仕事内容が合致していないことに原因がある場合があります。この場合は、募集の際に人材派遣会社と派遣先企業がしっかりとすり合わせをすることで、即時退職が防げる可能性があります。
③:賃金
賃金に不満を持っている場合があります。前述の調査によると「賃金制度を改善してほしい」という要望も多く出ています。
現状の賃金だけでなく、昇給がなかなかできない賃金制度などが経済的な不満の原因となり得ます。生活費や将来の不安から、より高い報酬を求めて他の職場を探すことも少なくありません。また、賃金に対する不平等感は、派遣社員に「自分の労働に対して適正な報酬を与えられていない」と感じさせ、職場への帰属意識や満足度を低下させる要因となりえます。
④:労働条件
派遣社員が想定していた労働条件と異なっていた場合、退職を検討する大きな理由となり得るでしょう。業務内容のミスマッチと同様に、派遣社員が事前に確認していた募集要項にあった老豪条件と合致していないことに原因がある場合もあります。
⑤:指揮系統
自己の職務における価値や貢献を正しく評価されていないという感覚につながり、職場における役割への不満を高め、最終的には退職を決意する要因となりえるでしょう。
派遣社員がすぐに辞める職場の特徴
では、派遣社員が辞めやすい職場にはどのような特徴があるのでしょうか。前出の調査の情報も含め、「業務内容」「人間関係」「その他」の3項目で分類すると、以下のものが例として挙げられます。
業務内容に起因する特徴 |
● 【仕事が流動的で決まっていない】 業務範囲が不明瞭で、派遣社員が自己の役割を見出しにくい環境は、モチベーションの低下につながる。 ● 【ルーティンワークが多い】 単調な作業の繰り返しは、職業的成長や充実感を得られにくくする。 ● 【教育研修が不十分】 十分な研修が提供されず、業務遂行のための知識やスキルが身につかないことは、職場適応を難しくする。 ● 【業務指示がない】 明確な指示やガイダンスの欠如は、業務遂行における不安や混乱を引き起こす。 ● 【やるべきことがわからずに放置状態】 派遣社員が適切なサポートを受けられずに放置されることは、孤立感や不満を増大させる。 |
人間関係に起因する特徴 |
● 【正社員と派遣社員の間で不和がある】 正社員と派遣社員間の不和は、職場の雰囲気を悪化させる。 ● 【派遣社員の居場所が見つけにくい】 派遣社員が受け入れられず、居場所を見つけにくい状況は、職場離れを加速する。 ● 【セクハラやパワハラが横行している】 職場でのセクハラやパワハラは、精神的苦痛を引き起こし、安全な職場環境を損なう。 ● 【職務中に罵倒が飛び交う】 職場での罵倒や不適切なコミュニケーションは、人間関係の悪化を促進する。 ● 【職場内での人間関係が悪い】 悪化した人間関係は、職場のストレス源となり、退職の原因となる。 |
その他 |
● 【1人あたりの業務量が多く忙しすぎる】 過剰な業務量は、過労やストレスを引き起こし、健康への悪影響や仕事への意欲の低下を招く。 ● 【残業が多すぎる】 多過ぎる残業は、ワークライフバランスの損失につながり、生活の質を低下させる。 ● 【不衛生な作業環境】 不衛生な職場は、健康へのリスクを高め、働きがいの低下を引き起こす。 ● 【交通アクセスが悪い】 交通の便が悪い職場は、通勤の負担が大きく、日常生活におけるストレスの一因になる。
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上記は派遣社員だけでなく、正社員のエンゲージメントを下げ得る特徴も含まれます。自社に上記のような特徴がみられる場合、管理部や役員などとも相談しつつ、改善を図りましょう。
派遣先で実施できる派遣社員の離職防止対策
自社で働いてくれる派遣社員の離職を防止する上では、次の対応策を採りましょう。
● 明確な募集要項の作成
● 業務内容の最適化
● 妥当性の高い待遇・給与設定
● 働きやすい職場環境づくり
● マニュアルや定期的な研修の提供
それぞれ個別に解説します
明確な募集要項の作成
募集要項では、仕事内容、必要なスキルセット、給与水準などの条件を明確に記載しましょう。透明性を確保することによって、求職者は自己の能力やキャリアプランをもとに、より適切な派遣先企業へ応募できるようになります。
その結果、入社後の役割に対する誤解によるミスマッチを防ぎ、双方にとっての不満が発生するリスクを未然に防げます。加えて、明確な募集要項は企業のブランドイメージを向上させ、信頼性のある職場としての印象を強化することにもつながります。
業務内容の最適化
派遣社員の能力や経験に応じた業務の割り当ては、スタッフのモチベーションを維持し、職場の生産性を高める上で重要です。適度な挑戦と成長の機会の提供を通して、派遣社員が自己実現を図れる環境を整えることが効果的です。
業務の過負荷を避け、適切な作業量の管理に努めることで、派遣社員の過度なストレスを防ぎ、雇用維持に貢献できます。これは、職場における健康的な労働環境を促進し、全体としての仕事の質を向上させることにもつながります。
妥当性の高い待遇・給与設定
市場の相場や職種の特性を考慮して、公正で競争力のある派遣料金を設定すれば、派遣社員は「自分の労働に対して公正な評価を受けている」と感じられ、モチベーションの維持につなげられます。さらに、業績に応じた報酬や充実した福利厚生の提供は、スタッフの仕事に対する満足度と忠誠心を高める重要な要素です。
これにより、企業は才能のある応募者を引き付け、保持することが可能となり、競争力のあるビジネス環境を維持できるでしょう。
働きやすい職場環境づくり
清潔で安全な職場環境を確保や適切な休憩スペースを提供するなど、労働条件を改善することが極めて重要です。その上では、ハラスメントの防止策を講じ、心理的安全性の高い職場をつくる取り組みも求められます。
また、派遣社員に対するサポート面談などは基本派遣会社が行いますが、派遣先企業が話しやすい雰囲気でサポートが充実した職場であれば、スタッフ間のコミュニケーションも促し、チームワークの向上にもつながるでしょう。さらに、派遣社員の様子に気になるところがあれば、派遣会社に相談しヒアリングを行ってもらうこともでき場合があります。これにより、事前に状態を把握して離職を未然に防ぐこともできるでしょう。
マニュアルや定期的な研修の提供
派遣社員のスキル不足に関しては、企業側が派遣社員にも研修などの教育を実施することで、離職を防ぐ手段として有効でしょう。正社員に行っている研修を、派遣社員は参加を免除されることが多いです。派遣社員にも参加してもらうことで、実務以外でのスキル向上の手段となります。
またマニュアルも作成しておくことで、業務中いつでも研修内容を振り返ることができます。このように、正社員同様にスキルアップを図ることで、派遣社員の定着率をアップさせることができるでしょう。
まとめ
派遣社員がすぐに辞めかねないという課題を解決するには、根本的な原因に対処することが重要です。「明確な募集要項の作成」「業務内容の最適化」「妥当性の高い待遇・給与設定」などによって、派遣社員が直面する問題を未然に解消しましょう。
これらの対策を実施することで、派遣社員の満足度と職場への帰属感を高め、なるべく長い期間働いてくれる可能性を高められます。