人材配置が適切でなければ、能力を持った従業員を抱えていても、うまく成果を引き出すことができません。「人材ポートフォリオ」を作成することで、経営資源を最大限に活用するだけでなく、自社に不足している人材の確保を早めに行えるでしょう。
この記事では、人材ポートフォリオを作成する意味やメリット、作り方などを解説します。
人材ポートフォリオとは
人材ポートフォリオを最大限に活用するには、まずは基本となる定義をおさえておく必要があります。人材ポートフォリオが重視される理由も含めて解説します。
人材ポートフォリオの定義
人材ポートフォリオとは、企業内の人的資源がどのように構成されているかを可視化したものです。一口に従業員といっても、スキルや経験はさまざまですが、人材を適材適所に配置することで企業の業績を向上させることができます。
人材ポートフォリオは人材マネジメントの手法の一つであり、採用計画や人材育成、人事評価制度の見直しなどのあらゆる面で役立ちます。人材の適切な配置によって、従業員のモチベーションを高めることにもつながり、離職率の低下などにもつなげられるでしょう。
重視されている理由
人材ポートフォリオが必要とされているおもな理由としては、働き方改革の推進や女性の社会進出が背景として挙げられます。
労働者の意識の変化によって、短期間勤務やリモートワークなど多様な働き方を取り入れることが企業側に求められています。また、少子高齢化による将来的な人材不足に備える意味でも、これまでよりも幅広い人材を雇用し、業務を効率化していく必要性があります。
労働者一人ひとりに合った働き方や評価制度を確立しつつ、企業全体として業績を向上させていくためには、多様な人材の活用が欠かせません。そうした背景があるからこそ、人材ポートフォリオ作成を通じた人材の可視化が必要なのです。
人材ポートフォリオを作成するメリット
人材ポートフォリオを作成することで、企業はさまざまなメリットを享受できます。具体的なメリットとして、ここでは3つの点を解説します。
人材やコストの過不足を把握できる
人材ポートフォリオを作成することで、人材の過不足を正しく把握できます。現状分析を行うことで、必要な職種やスキルを持つ人材の不足を把握できるでしょう。
また、余剰人員の把握にもつながるため、不要なコストを削減することにもつながります。削減できるコストが明らかになれば、その分の経営資源を新規採用にあてたり、新たな人材を確保したりといった施策の実施にもつながるはずです。
社員一人ひとりに合わせたキャリアパスが形成できる
時短勤務やリモートワークなどが広がったことで、働き方や働く場所、キャリアアパスも多様化しつつあります。そこで人材ポートフォリオを作成すれば、一人ひとりのスキルや経験を可視化することができるため、個々の従業員に合わせた提案やキャリア支援を行いやすくなるでしょう。
現状抱える従業員の力を最大限に発揮させる仕組みを整えたうえで、採用計画などを立てていくことで、適切なマネジメントを行えるはずです。
適材適所で人材を配置できる
人材ポートフォリオを作成することで従業員の強みや苦手な部分を的確に把握できるため、適切に人材を配置できるようになります。プロジェクトや部署に合った人材の配置が行えることで、無駄のない人材マネジメントを実現できるはずです。
また、人材の特性に沿った形で配置を行えば、従業員のモチベーションアップにもつながります。業務に対するやりがいを感じてもらうことで、離職率の低下も期待できるでしょう。
人材ポートフォリオの作成手順
人材ポートフォリオを作成するメリットを把握したら、次は作成手順を見ていきましょう。
人材活用の目的を明確にする
人材ポートフォリオを作成するうえで重要な点は、人材活用の目的を明らかにすることです。企業としてどのようなビジョンを持って取り組んでいくかを明示しなければ、従業員が混乱する恐れがあります。
人材活用を経営戦略の課題として捉え、中長期的な経営計画の見直しも図りつつ、従業員に事業戦略や人材活用の目的を説明していくことが大切です。
自社に必要な人材や職種を分析・定義する
人材ポートフォリオは、現況だけなく、将来的に必要な人材や職種も見極めたうえで作成する必要があります。今後不足が予想される職種は何かを洗い出し、採用計画や人材育成などにつなげていくことが大事です。
また、経営戦略や事業戦略などと絡めて、時間をかけて人材の育成や確保を検討する必要もあります。現場担当者や各部署の意見なども交えながら、人材ポートフォリオを作成していきましょう。
社員をそれぞれのタイプに当てはめる
必要な人材を定義する際は、「専門職・総合職」と「人材の適性」の2つの軸で検討すると分かりやすいでしょう。
「専門職・総合職」の軸では、事業全体で一定の職種や職域の偏りが見られないかを確認します。余剰人員がいる場合は、配置転換などによってそれぞれの部署や部門が円滑に回るように、人員配置を検討しましょう。
「人材の適性」によって分ける方法では、たとえば、個人で業務を行うのが得意な人材、チームで業務を行うのが得意な人材といったように、どのような環境下で力を発揮するかで人材を分けましょう。
また、新たな企画やアイデアを練るのが得意な人材、すでにある商品やサービスを販売するのが得意な人材などの区分を行ってみる方法も有効です。業務に取り組むうえで必要となるスキルで人材分けを行うことで、どのようなスキルを持った人材が不足しているかを可視化できます。
先述のとおり、人材ポートフォリオの作成においては今必要な人材だけでなく、将来必要となる人材も含めて検討することが肝要です。今後必要になる人材をある程度のスパンで捉えておくと中長期的な人材戦略を立てやすくなります。
加えて、従業員のスキルや経験はデータに基づいて判断を行い、客観的な視点で根拠を示せるようにしておきましょう。根拠に基づかない分析を行っても、自社が抱える人材面での課題解消にはつながりづらいため注意が必要です。
人材に対する評価への偏りをできるだけなくし、正確なデータに基づいて人材ポートフォリオを作成していきましょう。
タイプに偏りがないかをチェックする
自社に必要な人材を区分したら、各タイプに偏りが生じていないかをチェックします。各部署や部門に必要な人材を配置できているかを確認して、課題点を洗い出したり、将来的な目標を設定したりしましょう。
新たな人材を確保するための採用計画を立てる際の根拠となる部分なので、現状の課題だけでなく、将来的に想定される課題についても把握しておくことが大事です。
余剰・不足する人材のタイプを検討する
余剰人員や必要な人材の不足がある場合は、人材面で抱える課題を解消する手段を検討しましょう。必要に応じて、人材の採用・育成・配置転換・解雇などの施策を実行し、スケジュールに沿って進捗状況をチェックしていきます。
ただし、人員削減を行う場合は安易に進めるのではなく、あくまで適材適所となっていない部分を解消する目的で施策を実行することが大切です。
人材ポートフォリオを作成するときのポイント
人材ポートフォリオを作成する際は、いくつかのポイントをおさえておく必要があります。ここでは、3つのポイントについて解説します。
予算や一定の期間がかかることを認識しておく
人材ポートフォリオは、従業員数が多ければ多いほど作成のための予算や期間を要します。また、人事評価制度の見直しや新たな働き方を認めるなど、これまでのやり方を大きく変えなければならない部分もあるため、従業員の理解も必要です。
早急に進めようとすれば現場の混乱を招く恐れもあるため、時間をかけてじっくりと進めていく必要があります。人材ポートフォリオの作成が完了してからも定期的に見直しを行い、数年単位の長期スパンで取り組んでいきましょう。
すべての社員を対象とする
人材ポートフォリオは、従業員の雇用形態にかかわらず全従業員を対象とします。一部の従業員だけを対象にしてしまうと、人的資源の分析が不十分なものとなり、成果につながりづらくなるためです。
そのうえで、人事評価制度の見直しなどは現場の声も取り入れながら、できるだけ不公平感が出ないように配慮することが大事です。
社員のモチベーションを高めるために活用する
人材ポートフォリオ作成は、あくまで自社の人材活用における現状把握や将来的な課題の把握が目的で、従業員の優劣をつけるためのものではありません。
従業員に自身が持つ能力や経験を最大限に発揮してもらい、モチベーションの向上につなげていくことが狙いです。多様な意見や要望を柔軟に取り入れながら、コミュニケーションを円滑に行える場を積極的に設けるなどして対応していきましょう。
ダイバーシティマネジメントを成功に導くには、すでに成果を上げている事例から学ぶことも重要です。具体的な取り組みの事例を紹介します。
まとめ
人材ポートフォリオを作成することによって、自社が抱える人材を可視化することができます。人材に関する現状分析を行うことで、どのような人材が不足しているか、従業員のモチベーションを高めるにはどうしたらいいかなどを把握できます。
多様な働き方や人材を抱える企業が増えているからこそ、人材活用の分野においても見える化に取り組んでいく必要があります。一人ひとりの働き方や能力を適切に見極めることで、業績の向上につなげていくことが大事です。